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拍手(夏バージョン)
夏バージョン
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2009.01.14_21:45
12
五月二十八日。
ガン、ガァン、ガァアン!!
どこにぶつけていいか分からない怒りを、弾丸に込めて、カノンは何発も的に撃ち込んだ。サガのせいじゃない。自分が選ばれたのは偶然だ。所詮売られた身で、今まで生かしてもらえただけでも良い方だ。でも。でも!
今までは、サガさえいればいいと思っていた。母に捨てられ、サガだけがカノンの全てだった。なのに、シオンがカノンに外の世界を見せてしまったから。
夜空の星は輝き、空気は柔らかい。踏みしめた足元からは土の匂いがした。全てが懐かしかった。サンクチュアリという檻に入れられる前に戻ったかのようだった。母とサガと、三人で過ごした日々に。――それが。
もう、出られない。こうして地下の射撃場で動かない的を相手にするくらいしか、カノンにできることはない。ただ、サガの引きずる影として、存在するだけ。それは生きていると言えるだろうか?ただそこに在るだけではないか?少なくとも、人間としての生ではない。
いつの間にか、銃を構える腕も下を向いていた。何かが体の中を奔流のように駆け巡っていた。それはカノンの動きを止め、ひたすらに心だけを震えさせ、最後に瞳へと湧き上がってきた。
泣くな。泣いて状況が変わるわけじゃない。俺が上の言うことを聞いていれば、サガは無事でいられる。そうだ。全てサガのために。
瞼を下ろして、ぐっと堪えていたとき。
「サガ!」
無邪気にこちらに駆け寄ってくる金色。
(…サガ?)
振り向けば、彼の親友のアイオリアとカミュも歩み寄ってくる。普段はここで顔を合わせないシャカとムウの二人もいた。
「ミロ」
ボスッとカノンの腹に顔を埋めるようにして、ミロは抱き付いてきた。
「サガってば、ここに来るんなら誘ってくれよ!俺が上達したの見てくれるって言ってたじゃん!」
じゃれ付いてくるミロはやんわりと引き剥がすと、その嬉しそうな顔が見えた。
(…そうだ、俺はサガだ)
「ほう、さすがサガだな。全弾急所か」
シャカが今までカノンが立っていた的の前に行くと、そう声を上げる。
(そうだ。カノンはいない)
「サガですからね」
ムウがそう言う。
(サガにならなくては)
「サガ、俺も最近命中率上がったんだ。見ててくれよ」
アイオリアが。
(俺はもう一人のサガ)
「…少し顔色が悪いようですが、サガ?」
カミュが。
(影の如く、何もかもが同じでなければならない)
「…あ、ああ。少し疲れたかな?ミロもリアも、また今度見てあげるから」
何とかそれだけ言って、逃げるようにそこをあとにした。エレベーターホールに行って、何度も何度も上を指すボタンを押して。やっと乗り込んだ箱の中で、両腕で自分を抱いた。再びドアが開くと、駆け出して自分の部屋へと飛び込んだ。入ってすぐに、膝からくず折れた。
「あ、ああ…!」
(サガでなければ)
ただ、「カノンだよ」と告げればそれでよかった。それなのに、「サガ」と呼ばれた瞬間、反射的にサガの振りをしていた。一度スイッチが入ってしまえば、あとは頭の中に響く声に従うだけだった。サンクチュアリに来てからの三年で、カノンはすっかり影へと変えられていた。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
このまま、生きたまま、死んでいく。消えていく。誰もカノンを見ない。誰もカノンを呼ばない。サガ。それだけ。サガ、サガ、サガ、サガ――
少年の絶叫は誰にも届かない。影にあるのは、「サガ」だけ。
その日、カノンは生きながらにして殺されるという恐怖を知った。
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五月二十八日。
ガン、ガァン、ガァアン!!
どこにぶつけていいか分からない怒りを、弾丸に込めて、カノンは何発も的に撃ち込んだ。サガのせいじゃない。自分が選ばれたのは偶然だ。所詮売られた身で、今まで生かしてもらえただけでも良い方だ。でも。でも!
今までは、サガさえいればいいと思っていた。母に捨てられ、サガだけがカノンの全てだった。なのに、シオンがカノンに外の世界を見せてしまったから。
夜空の星は輝き、空気は柔らかい。踏みしめた足元からは土の匂いがした。全てが懐かしかった。サンクチュアリという檻に入れられる前に戻ったかのようだった。母とサガと、三人で過ごした日々に。――それが。
もう、出られない。こうして地下の射撃場で動かない的を相手にするくらいしか、カノンにできることはない。ただ、サガの引きずる影として、存在するだけ。それは生きていると言えるだろうか?ただそこに在るだけではないか?少なくとも、人間としての生ではない。
いつの間にか、銃を構える腕も下を向いていた。何かが体の中を奔流のように駆け巡っていた。それはカノンの動きを止め、ひたすらに心だけを震えさせ、最後に瞳へと湧き上がってきた。
泣くな。泣いて状況が変わるわけじゃない。俺が上の言うことを聞いていれば、サガは無事でいられる。そうだ。全てサガのために。
瞼を下ろして、ぐっと堪えていたとき。
「サガ!」
無邪気にこちらに駆け寄ってくる金色。
(…サガ?)
振り向けば、彼の親友のアイオリアとカミュも歩み寄ってくる。普段はここで顔を合わせないシャカとムウの二人もいた。
「ミロ」
ボスッとカノンの腹に顔を埋めるようにして、ミロは抱き付いてきた。
「サガってば、ここに来るんなら誘ってくれよ!俺が上達したの見てくれるって言ってたじゃん!」
じゃれ付いてくるミロはやんわりと引き剥がすと、その嬉しそうな顔が見えた。
(…そうだ、俺はサガだ)
「ほう、さすがサガだな。全弾急所か」
シャカが今までカノンが立っていた的の前に行くと、そう声を上げる。
(そうだ。カノンはいない)
「サガですからね」
ムウがそう言う。
(サガにならなくては)
「サガ、俺も最近命中率上がったんだ。見ててくれよ」
アイオリアが。
(俺はもう一人のサガ)
「…少し顔色が悪いようですが、サガ?」
カミュが。
(影の如く、何もかもが同じでなければならない)
「…あ、ああ。少し疲れたかな?ミロもリアも、また今度見てあげるから」
何とかそれだけ言って、逃げるようにそこをあとにした。エレベーターホールに行って、何度も何度も上を指すボタンを押して。やっと乗り込んだ箱の中で、両腕で自分を抱いた。再びドアが開くと、駆け出して自分の部屋へと飛び込んだ。入ってすぐに、膝からくず折れた。
「あ、ああ…!」
(サガでなければ)
ただ、「カノンだよ」と告げればそれでよかった。それなのに、「サガ」と呼ばれた瞬間、反射的にサガの振りをしていた。一度スイッチが入ってしまえば、あとは頭の中に響く声に従うだけだった。サンクチュアリに来てからの三年で、カノンはすっかり影へと変えられていた。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
このまま、生きたまま、死んでいく。消えていく。誰もカノンを見ない。誰もカノンを呼ばない。サガ。それだけ。サガ、サガ、サガ、サガ――
「うわぁぁぁあああああああああ゛あ゛!!!」
少年の絶叫は誰にも届かない。影にあるのは、「サガ」だけ。
その日、カノンは生きながらにして殺されるという恐怖を知った。
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